●口呼吸の子どもが増えている?
→歯科領域では口腔器官に異常や障害がないのに、食べる・話すなどの口腔機能の発達が不十分、もしくは正常な口腔機能が獲得できていない状態を「口腔機能発達不全症」と定義します。これになる原因として、口呼吸と口唇閉鎖不全です。これらは、う蝕、歯周疾患、不正咬合といった顎口腔領域への悪影響だけでなく、アレルギー疾患や学力の低下など、小児の身体的・精神的な成長・発達の妨げとなることが指摘されてきました。日本国内の約400万人の小児が口唇閉鎖不全であると推計されます。
口呼吸とは、「安静時に口で呼吸している状態」を言います。発声や運動など多くの酸素を必要とする場合は口でも呼吸しますが、それ以外の安静時は口を閉じて鼻呼吸をするのが正しい呼吸の方法です。口呼吸は、暖まっていない乾燥した空気をいきなり吸い込むことになり、ウイルスなどの病原体が体内に侵入しやすく、喉がダメージを受けやすくなります。さらに、口腔内が乾燥するデメリットもあります。
鼻呼吸を行うためには、安静時に「上下の口唇が閉じている」「舌先が口蓋に触れている」の2つの条件が必要です。
●口呼吸・口唇閉鎖不全による歯科的・全身的弊害
→口腔内が乾燥しやすくなる、口腔周囲の筋肉の働きが悪くなる、病原体を取り込みやすいなどからこういった弊害が起こりやすくなります。
①口腔習癖、不正咬合、発音障害
②歯周病、う蝕のリスクが上がる
③口臭の原因
④前歯に外傷や色素沈着
⑤咀嚼と咀嚼回数が減少する
⑥審美性の低下
⑦アレルギー、呼吸器疾患にかかりやすくなる
●どんな問題が起きるのか??
①食べ方への影響
→口唇の周囲には沢山の筋肉が繋がっており、よく噛んで食べるとそれらの筋肉がよく動き、頬、口唇、舌が歯の表面をよく擦り、唾液が多量に出て、消化・吸収を助ける上に、自浄作用が働きます。ところが、口唇閉鎖をせず食べると、噛み切ったり、粉砕はできても、モグモグと口を左右に動かし食べ物をすりつぶすことができません。また、口呼吸している子どもが食事をするときには、呼吸と咀嚼嚥下を同時にしなければならず、息苦しくなるので口を開けたまま、クチャクチャと噛んですぐに飲み込む食べ方になります。よく噛んで飲み込む為には、口唇閉鎖がきちんとできる必要があるのです。
②鼻・喉の問題
→鼻閉が原因となり口呼吸が起こる場合があります。反対に習慣的な口呼吸や口唇閉鎖不全により、免疫システムが障害され、アレルギー性鼻炎や喘息など、鼻や喉に異常をきたす疾患を引き起こす場合もあります。
③飲食習慣
→うまく噛めず、咀嚼の回数も減るので早食いになったり、食べた後に口腔内に食物がずっと残ったりします。よく噛めないことが、軟らかいものを好むことや偏食の原因になります。
④歯・歯肉の問題
→口腔内が乾燥することで、唾液の分泌量の減少と緩衝能の低下が起こり、う蝕の原因菌も増加します。口唇閉鎖不全により、唾液の分泌量が減少すると歯周病菌が増加するので歯周疾患のリスクも高くなります。口呼吸は歯面が乾燥しやすいので、歯面の着色(特に前歯)が起こりやすくなります。口呼吸が日常化すると、本来上顎の口蓋に接触しているはずの舌背の位置が下がり、低位舌となります。舌圧がかからないため、口蓋が狭く高くなり、歯列の狭窄や下顎の後退が起こった結果、上顎前突の傾向が強くなると考えられています。あるいは、口をポカンと開けていたため、舌突出癖がつき、開口になる場合もあります。
⑤口臭
→口腔内の乾燥による唾液分泌量の減少および、口腔細菌の増加をもたらすため、口臭の原因となります。
⑥口唇の乾燥
→呼吸のたびに乾燥した空気が通過するので口唇が乾燥します。口唇に出血やひび割れがみられることもあります。
⑦顔貌への影響
→口唇閉鎖不全の小児の顔貌には、鼻が低い、口元が突出している、顎が後方に下がっているという特徴がありました。これらの特徴は3歳の時点で出現することが分かっています。
⑧全身的弊害
→小児に関しては、口呼吸になると呼吸数、血中酸素、歩行距離が低下する、喘息呼吸との関連や腹式呼吸の出現率が高く、不良姿勢、あるいは胸郭の変形を引き起こしたり、精神面への影響に関する報告もあります。
一方、成人では、口呼吸があると気管支喘息のリスクが2倍以上になり、アレルギー性鼻炎が加わると、4倍以上になると言われています。肥満や日中の眠気、睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘されています。
●まとめ
→口呼吸や口唇閉鎖不全症は口腔機能の発達を早期から阻害する重大な要因です。これらを早期発見し、改善する事は将来起こり得る歯科的・全身的弊害を未然に防ぎ、正常な口腔機能の発達を促す有効な手段となるでしょう!!